ペテン師にさよならを。

里里という猫が我が家にやって来た。サトリと読む。私が名付けた。音の通り、悟りたいという願いを込めて、里里(サトリ)と名付けた。

さとり【悟り/覚り】  出典:デジタル大辞泉(小学館)
1.物事の真の意味を知ること。理解。また、感づくこと。察知。「―が早い」
2.仏語。迷妄を払い去って生死を超えた永遠の真理を会得すること。「―の境地に達する」

そういえば旅人はいつも「悟りたい。」と言っていた。私は時たま、旅人の言葉を思い出す。

何年振りかに海外から帰国している親友と再会した。彼女はますます凛として美しかった。私は相も変わらずふわふわとしていてどうしようもない。降り続く雨に打たれて、かに道楽もグリコも泣いているようだった。彼女の姿を目にした瞬間私は泣いて、まるで子供みたいだった。TSUTAYAもスターバックスも滲んでしまって、目の前の彼女の笑顔も私の目には滲んで見える。雨は降り続く。時間は本当に関係がないのだなと思う。会わない時間があっても、私たちは私たちの時間がそのままに流れていた。そんな日に里里と出会った。

ジェットコースターに乗ったら空が青すぎてまた泣けてきたのは、それから数日後のことだった。久々にこの類のものに乗ったからかもしれないが、飛んでいる私の体にどんどんと血の温もりが蘇ってくる。こんな広い空を見たのはいつぶりだろうか。嬉しい。嬉しすぎて、驚いている。空はこんなにも青いのか。広いのか。前進するたびドクドクとして、急降下するたび涙がこぼれた。すごい速度で走るもんだから、涙は蒸発して塩分だけが皮膚にこびりついた。べたべたになった頬と鼻水まで拭いながら、ぐるんぐるん揺さぶられる脳みそと心が、やっと本当に私のもとへ戻って来てくれたようだ。何にも支配されない、本物の私のところへ戻って来た。嬉しくて嬉しくて、安全バーを握る手にはますます力がこもった。ここで死ぬわけにはいかない。己はもう、誰にも奪われない。私は叫んだ。私たちは叫んだ。青空にも夜空にも叫んだ。

全て生まれて初めて見る景色なのだ。私は口をへの字にして、眉をハの字にして、歯を食いしばって、空を仰いだ。生まれ変わったみたいだ。本当に今、生まれたんだ。この世界は限りなく自由だ。

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