シャンパンは夜の彼方の。

とても綺麗に髪の毛を結っている女性がいて、彼女は友人とエスカレーターに乗っていた。手に握るスマートフォンにはInstagramらしきアプリが開かれていて、チラチラと光っている。それを眺めながら時たま友人の話に相槌を打つ彼女は、黒いロングカーディガンを着ていたのだけれど綺麗に裏返しに着てしまっていて、洗濯表示タグと首元のブランドタグがヒラヒラと風に揺れている帰り道。彼女はそのことに全く気づいていなくて、頬は少し紅く染まっていたから恐らくほろ酔い気分で、男の話をしていた。小洒落たヒールがカツンカツンと高く鳴って、サラリーマンの背中に埋もれて消え行く洗濯表示タグを遠目に見ながら、私もサラリーマンの背中に埋もれて行く。

隣に座った女は今月3日しか休みがない、と零す。その言葉をだらりと隣の男が受け取って、なんとなく車両に漂い続ける台詞のような言葉たちが耳から離れず、メトロはどんどんとこの肩を揺らして人々を運んでゆきます、運んでゆきます。

今日はたくさんの大人に会った。たくさんの大人はスーツに身を包んでいて、クールビズなんて言ってもやはりスーツはスーツで、糊のきいたカッターシャツの擦れる音がする度になんだか緊張した。私はというといつも通りのワンピースで、なんだかよくわからないまま夜が来て、たくさんの大人がたくさんの汗を流し流し世の中が動いていることを改めて理解したかのような時間があり、衝撃波で動けなくなりそうな夏の終わり。相棒のギターは鳴りに鳴ってくれたけれど、大きな声で歌えたけれど、正解なんて分からない。きっとそんなもの永遠に分からないのだろう。夜は私たちに平等に影を落として。

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