夜行バスの待ち合い所は、雑踏を抜け暗闇を抜け、その先にある寂れたホテル街の中にあった。一本外れには飲み屋がずらりと立ち並んでいて、花金ということもあってかガラス張りの店は開け放たれたままで、中から黄色い声が漏れ出してくる。提灯が紅く点って、その脇から煙が漂って、終わりなき笑い声が響く。街がぼやけて行く。この筋の裏に宿屋街があるなんて、なんだか不思議だった。そういうものか。
何軒ものホテルが立ち並ぶから圧倒されてしまって、窓の数とか、看板の数とか、その字体とかネオンの数とか、今夜この箱の中で、どれだけの人が笑い合い、どれだけの人が泣き合いながら抱き合うのだろうかとか思うと途方もなく、ゆらゆらと足元が覚束なくなってしまったので、考えるのをやめることにした。ただ皆、幸福な夜があればいい。夜空を覆い隠すような高架下に閉じ込められながら、そんなことを思った。
立ち寄った近くのドラッグストアは日本語で看板が出ているが、店内に流れる音楽も、店外で呼び込みを行う店員さんも中国語で、まるで異国だった。私は確かに日本人で、確かに今日本にいるが、周りにいる客たちも揃いに揃って中国語を話すから、とうとう中国にいるかのような錯覚に陥った。売っているものは全て日本語表記で、整列したグミ類のパッケージが原色でやけに眩しい。それらに見つめられているような気がしてなんだか落ち着かなくなって、結局何も買わずに店を出た。
このバスに揺られて、私は運ばれてゆく。愛する街から恋する街へ、運ばれてゆく。目が覚めたら、きっと恋する街は雨降りで、台風がやってくるだろう。ただ皆、幸福な夜があればいい。祈り、願い、目が覚めたら、また歌おう。