父の足跡。

父の青春と学びの地に訪れたとき、私はその街について何も知らず、しかしどの道を歩けども歩けども、この今踏みしめるアスファルトは敷き直されど、並ぶ店々は変われど、きっと数十年前にあの青年もこの道を歩いていたのだろう、雨の日も...

戯れ言ひとつと、

風が柔らかく、優しくなって、ひとつ、また季節が変わったなあと言う実感。それ吹くたび草木揺れるが、以前の揺れ方とまた違う。 先日まで雨続きだった。激しいものであった。雨はどうしたものか、あまり好きになれぬ。まず、お天気にど...

喉仏まで見せてよ。

君は会話をする際、度々口を隠した。いつもじゃないけれど、少し口を大きく開けて発音しなければならない音が来るとき、あるいは少し笑ったりするときに、左手の指を柔らかく曲げて、まるで卵を包み込むかのような指先で、しかしぴっちり...