師走や行くな、いきつぎ、つぎ、へ。
耳の調子をなんとなく崩してしまって、いつもそばに在る恋焦がれる音楽も、どうにかして掴みたいきみの声も、膜が張った遠くの方から聞こえてくる。そもそも何不自由なく生活できているこの日常が奇跡であって、逃したくないあの音も、溢...
耳の調子をなんとなく崩してしまって、いつもそばに在る恋焦がれる音楽も、どうにかして掴みたいきみの声も、膜が張った遠くの方から聞こえてくる。そもそも何不自由なく生活できているこの日常が奇跡であって、逃したくないあの音も、溢...
そういえばそうやってびーびー泣いとったわ、あいつも、どうにもならんこといつまでもぐちゃぐちゃ言うて、騙された、騙された言うて、うるさい、なんやねんその目、お前の目おかしいぞ、おかしいやろ、 僕は目の前の女を殴っていた。次...
父はいつもハンカチを持っていて、母と散歩がてら街を歩く際にふと入る手洗いののち、自分のハンカチを用意してその辺で彼女を待っている。彼女は濡れた手のまま彼のもとへ行き、彼から差し出されるハンカチで手を拭う。母はもしかしたら...
長月の終わりごろ、憂鬱な曇り空ひろがる夕刻過ぎの新宿で真島路さんと出会った。新宿アルタの裏通りにある雑居ビルの喫茶店にさらりと現れる彼女に驚いて、僕は思わず下を向く。履き潰したスリッポンの爪先の汚れが気になって仕方がない...