まる、てん、加速、イ、ロ、ハ。

過去に引き戻され苦しむ瞬間があって、それは本当に些細なきっかけで思い出され、またかと、憤りに震える。またお前か、と、まだ顔を出してくるのか、と、いい加減にしてくれ、と、怒鳴られ続けた日々を越え、血走った眼、欲吐き捨てられ続けた日々を越え、やっとここまで生き延びたのに、また同じような瞬間、場所が変わり、人が変わり、また同じような瞬間、また、また、その根源に居るのはいつも同じ顔で、もう思い出されず、青白い死んだ陶器のような肌に、目元口元は永遠にモザイクがかかったかのような映像が繰り返し脳内で再生される、震える、南海電車が走っていた。裸の線路に飽きることなく電車は行ったり来たりしていて、頼りない錆びた柵と、その上の有刺鉄線も錆びついて、ホームで待つ人だかりに見下げられながら、自転車を漕ぎ続ける、雨の匂いがした、と思った途端に本当に雨が降って来て、小粒だったのがだんだんと大粒になって来て、それは毛髪を搔い潜り頭皮にじっとりと降り注ぐ、一粒、一粒、ぼつり、ぼつり、と、その度に、頭をどん、どん、と殴られているような気がして、空から降る匂いに一一苛立つ。街の暗がりは刻一刻とこの存在を隠すように、しかし走り抜ける電車の前照灯に時たま照らされ、どこまで見透かされているんだろうか、怯えたがあっという間に通り過ぎまた闇夜に飲み込まれ、この肉体も全て飲み込まれたのだろうか、自転車の籠に付けた百八円の前照灯もどきが頼りなさ過ぎて、光って、踏切が、学生時代の八時十二分を思い出させ、この踏切を渡れば、渡りさえすれば君に会えると走り続けた青さが、鮮やかに闇夜に蘇る。そんな瞬間と、年を重ね体得してきたイロハたちと、確実に死んでいった精神と、それでも続く生命、生命、生命、甘えるなとどこからかまた罵声が飛んできて、己が選択したのだと、気付かなかった、見抜けなかったお前のせいだと、加速する欲まみれのバケモノはモザイクで、止まらないバケモノはますます声を荒げ、もうやめてくれと藁にもすがる思いで上を向く。空っぽが、あの街より確実に広くて、電線の数は圧倒的に少なくて、私はまだ、自転車を漕いだままで、どこに向かうのだろうか、何度も苛まれる記憶に怯えながら、どこに向かうのだろうか、また踏切を越えて、それでも道は続く。

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