カサと擦れて、夜を越すれど。

そういえばそうやってびーびー泣いとったわ、あいつも、どうにもならんこといつまでもぐちゃぐちゃ言うて、騙された、騙された言うて、うるさい、なんやねんその目、お前の目おかしいぞ、おかしいやろ、

僕は目の前の女を殴っていた。次の瞬間女は跳ねて、それから鈍い音がして、床にだらりと丸太みたいに転がった。しきりにしゃくり上げているようだから、まだ死んではいない。僕は、45Lのゴミ袋を流しの引き出しから乱暴に取り出して、捨てろ、全部捨てろや、と叫んでいる。自分はなにをしているのかな、と思う。昔、同じようなことを誰かにされたな、と、どこかで分かっている。女は腹を押さえながらむくりと起き上がって、大切にしていたであろう欠片たちを泣きながらゴミ袋に入れていた。膨れ上がった袋の前で呆然と佇み続ける女が鬱陶しいから、僕はすかさずそれを奪い取って外のゴミ集積所に持って行く。頼りない蛍光灯の下、いつかの淀んだ臭いが残ったステンレス製のトラッシュシェルターの蓋を開けて、憎い欠片を投げ込む。ガンッと何かとぶつかって、欠片は暗闇に消えた。見えなくなったそれをしばらく見つめていると、これ以上ないほど安堵している自分がいる。目が覚めた。

 

大丈夫ですよ。

受話器越しに真島路さんは言う。いつもよりもっと静かに、でも確かに、ゆっくりと。

大丈夫です。

彼女はまた言う。こちらを異物だとか異常だとか、そんな風には全く感じていないかのように。ただ、同じ人間として、さりげなく。どうしようもない僕は、なんとなく、どうしようもないことも、どうにもできなかったことも、大丈夫なのかもしれない、と思った。しばらくすると向こうのほうでカサカサと紙が擦れる音がして、すみません、少し書類の整理をしていますと、彼女はふふっと笑う。それから少し沈黙があって、またカサカサと音がする。すみません、すみません、クククッと小さく笑って、彼女はまた書類の整理を始める。

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